『むち打ち』は、交通事故においてもっとも多いケガであるのと同時に、被害者が思っているよりも少ない金額の慰謝料を提示されてしまうことが多いケガです。
その原因の1つは、痛みを他人に伝えづらいため、慰謝料の評価が難しいことにありますが、実は、交渉が十分にできていなくて、本来の金額に達していないというケースも少なくありません。
このページでは、交通事故による『むち打ち』の慰謝料に関する疑問を、分かりやすいようになるべく簡潔にQ&A方式でまとめています。
「この先の治療費のことが心配…」「慰謝料はどれくらいが相場?」「弁護士に相談したい…」など、被害者として不安に感じることが多いと思いますので、ぜひ参考にしてください。
先に大事なことを2つだけ
Q&Aに入る前に、2つだけ、交通事故の慰謝料についてとても大事なことがあるので先にお伝えしておきます。
1つ目は、慰謝料は『損害賠償金』(示談で解決した場合は示談金)の1つで、入通院に関わる『入通院慰謝料』と、後遺症が残ったときの『後遺障害慰謝料』の2つがあるということ。
治療による回復が落ち着いて(症状固定)、なお痛みや痺れが残る場合は、後遺障害慰謝料と逸失利益の請求をする準備を進めることになります。
※死亡慰謝料を除く
2つ目は、慰謝料として請求できる金額は「自賠責基準」⇒「任意保険基準」⇒「弁護士基準(=裁判基準)」の順で高くなるということ。
保険会社にすべてを任せておくと、社内基準で独自に計算した(計算方法は非公開)「任意保険基準」の金額で話が進んでしまうので、注意しなくてはいけません。
慰謝料科目 |
通院期間・等級 |
自賠責基準 |
任意保険基準 |
弁護士基準 |
---|---|---|---|---|
入通院慰謝料 |
1ヶ月 |
86,000円 |
105,000円 |
190,000円 |
3ヶ月 |
258,000円 |
315,000円 |
530,000円 |
|
6ヶ月 |
430,000円 |
525,000円 |
890,000円 |
|
後遺障害慰謝料 |
14等級 |
320,000円 |
330,000円 |
1,100,000円 |
12等級 |
940,000円 |
960,000円 |
2,900,000円 |
※数字は過去のデータを基にした例であり、金額を保証するものではありません
これらのことを “知らない” と、被害者であるあなたが、本来もらえるはずの慰謝料を受け取れずに損することになります。
とくに、後遺障害慰謝料を請求する場合は、金額の差が大きいので必ず弁護士基準で慰謝料を請求することを念頭に置いてください。
いずれにせよ、今回の事故による、あなたの慰謝料の相場がいくらになるのかを計算しておくことはとても大切です。
それでは「むち打ちと慰謝料に関するQ&A」に進みます。
むち打ちと慰謝料に関するQ&A一覧
Q1:むち打ちの平均的な治療期間は?
むち打ちの症状の治療期間は、一般的には1〜3ヶ月が平均とされていますが、症状の重さによっては半年〜1年、後遺症があれば当然それ以上の治療を要することもあります。
日常生活で違和感があるくらいで2〜3ヶ月、常に痛い場合は半年くらいといった目安もありますが、これはあくまで目安であり、年齢、体力、治療法、心理的な要因などによってその期間には個人差があります。
Q2:むち打ちの慰謝料の金額はどう決まる?
- 【治療期間】(入通院慰謝料)
- 【算出基準】
- 【後遺症の有無】(後遺障害慰謝料)
慰謝料を算出する際のベースは、入院・通院の日数と回数です。
慰謝料の金額を計算する基準は「弁護士基準(裁判基準)」「任意保険基準」「自賠責基準」の3つがあります。
後遺障害が残った場合は、後遺障害の等級に応じて慰謝料が上乗せされます。
慰謝料は「治療期間が長いほど精神的苦痛も大きくなる」という基本の考えがあるので、ベースになるのはあくまでも入院・通院の日数と回数です。
ただし、たとえ同程度の症状であっても、算出基準によって慰謝料の金額は変わってしまいます。
本来、慰謝料は裁判所で妥当と判断している基準で統一されるべきですが、一般的に加害者側の保険会社は、自賠責基準や任意保険基準で算出(示談金を提示)することが定着しています。
弁護士に交渉を依頼することによって、文字どおり弁護士基準(裁判基準)での算出になりますが、これを知らないと保険会社の提示した金額のままということです。
Q3:むち打ちの慰謝料の相場は?
ここで改めて、それぞれの基準で算出した慰謝料の相場を見てみましょう。
慰謝料科目 |
通院期間・等級 |
自賠責基準 |
任意保険基準 |
弁護士基準 |
---|---|---|---|---|
入通院慰謝料 |
1ヶ月 |
86,000円 |
105,000円 |
190,000円 |
3ヶ月 |
258,000円 |
315,000円 |
530,000円 |
|
6ヶ月 |
430,000円 |
525,000円 |
890,000円 |
|
後遺障害慰謝料 |
14等級 |
320,000円 |
330,000円 |
1,100,000円 |
12等級 |
940,000円 |
960,000円 |
2,900,000円 |
※数字は過去のデータを基にした例であり、金額を保証するものではありません
現在、任意保険基準の計算法は非公開なので、数字はあくまでも過去のデータによる例ですが、いずれにしろその金額は弁護士基準には届きません。
実際には、通院期間や、相手との過失割合によってこれらの金額は変わりますが、ポイントになるのはそれぞれの金額に大きな差があること。
そして、治療期間が長いほど、後遺障害等級が高いほど、「自賠責基準・任意保険基準」と「弁護士基準」とで金額の差が広がるというところです。
なので、治療期間が長引くことが予想される場合や、後遺症が残りそうという場合は、必ずあなたのケースではどのくらいの慰謝料が相場なのかを調べておきましょう。
Q4:弁護士に相談するならいつ頃までにすればいい?
事故が発生してから示談金を受け取るまでの流れはこのようになります。
この中で、初めて弁護士に相談するタイミングとしては「@治療期間」「A症状固定」「B示談交渉」などが考えられますが、基本的にはどのタイミングでも構いません。
ただし、「@治療期間」における、医師とのやり取りや通院回数などのアドバイスで、慰謝料が増額するケースもあるので、できれば治療期間中に一度は相談しておきたいところです。
「痛いけど仕事があるから通院を我慢した」「回数が多い方がいいと思ってたくさん通院した」などの原因で受け取れる慰謝料が少なくなると分かっても、残念ながら時間は元には戻せません。
また、相手方との交渉を、ご自身で行っている場合はもちろん、自分で加入している保険会社が代行している場合でも、慰謝料を弁護士基準で請求してくれるわけではないということも頭に入れておきましょう。
その点、弁護士によるサポートは、適正な慰謝料の請求だけにとどまらず、保険会社との交渉、書類作成の代行、入通院時のアドバイスなど多岐に渡ります。
入通院から示談交渉までの、精神的なストレスから解放されるという意味でも弁護士のサポートはとても心強いです。
Q5:治療費などの『内払い』とは?
加害者側の任意保険会社に内払いを請求すると、被害者が治療継続中でも、すでに発生している治療費などを支払ってくれます。
その目的は、すでに発生している費用を示談がまとまる前に先行して支払うことで、事故後の被害者の経済的な負担を軽減することです。
内払いの対象となる費用は主に「医療費」「慰謝料」「休業損害」などがあり、これらの費用は、最終的な示談金の中に含まれることになります。
また、治療費に関しては、「任意一括対応」というシステムで保険会社が病院に直接支払ってくれることも多いです。
内払いを受けるには、被害者側から保険会社に対して申請する必要がありますが、具体的な請求方法や必要書類は保険会社により異なるため、詳細は各保険会社に確認してみましょう。
※現在は自賠責保険による内払いの制度はありません
Q6:1日4,300円だからたくさん通院した方が得?
自賠責基準では、加害者側の自賠責保険会社から支払われる入通院慰謝料の日額は4,300円で算出されます。
ただし、自賠責保険の最高額は120万円と決まっていて、これは慰謝料だけでなく「治療費」「交通費」「休業手当」なども含まれる金額です。
もし、通院回数が多くなり、治療費や慰謝料を含む全体の損害額が120万円を超えた場合においては、自賠責保険からは120万円までしか支払われません。
120万円を超えた分は保険会社か加害者に請求することになります。
また、通院の必要性がないにもかかわらず高い頻度で通院した場合には、過剰診療が問題となります。
過剰診療の場合には、示談や訴訟においても支払った治療費が損害として認められず、慰謝料も増額されない可能性がありますので、たくさん通院したほうが得というわけでありません。
Q7:過失割合が10対0だと損をすることがある?
過失割合が(加害者)10対0の場合は、ご自身が任意保険に加入していても交渉の代行はしてもらえないので、被害者自身で加害者側(の保険会社)と交渉する必要があります。
その際に、保険会社が良心的な慰謝料の提示をしているように見えても、実は、被害者に不利な条件になっているというケースもあるので注意しなければいけません。
過失割合が10対0のときは、こちらに非がないので損をしないというイメージがありますが、このような状況にならないためにも、むしろ弁護士へ相談するほうがいいでしょう。
保険会社の担当者は、示談交渉の専門家、つまり交渉のプロなので、こちらもプロの力を借りるに越したことはありません。
相談するだけでも交渉に有用なアドバイスを受けることができますし、交渉を任せれば時間や労力の負担を軽減することもできます。
Q8:弁護士に頼めば慰謝料は増額する?
本来、慰謝料の金額は裁判所が妥当だと判断している「弁護士基準(裁判基準)」で統一されることが望ましいのですが…
任意保険会社は、自社の利益を守るために、弁護士基準よりも低い基準で慰謝料を算出するというのが一般的です。
弁護士に交渉を依頼すれば、このような状況を避けることができて、とくに慰謝料の項目において適正な示談金を求めやすくなるのは間違いないでしょう。
ただし、治療期間が短いなどの理由で慰謝料が極めて少額になってしまう場合は、弁護士の費用が慰謝料の増額分を超えてしまうケースもあります。
なので、すでに示談金を提示されているのならその金額は妥当なのか、まだ示談提示の前であればあなたのケースではどのくらいの慰謝料が相場なのかを調べておくことは大切です。
Q9:相手の保険会社から「治療費の打ち切り」と言われた?
ケガの状態にもよりますが、むち打ちの場合は、3ヶ月を過ぎた頃に相手の保険会社から治療費の打ち切りの話があることが通例です。
これはあくまでも保険会社の基準なので、症状が残っていれば治療を続けても問題はありません。
まずは主治医と相談し、まだ治療が必要である(症状が改善する見込みがある)ことを確認できたら、保険会社に対して治療費の支払いを継続するよう交渉します。
仮に打ち切りにされたとしても、保険会社は、医師の見解による「症状固定」に至るまでは治療費を支払う義務があり、立て替えた治療費は示談交渉で回収できます。
また、今の時点で痛みが残っていれば、症状固定をして後遺障害等級の認定を目指したほうが賠償金の総額では高くなるというケースも多いです。
これらの判断をご自身でするのは困難ですし、後遺障害等級が認定されるかどうかは人生を左右することにもなるので、弁護士への相談を検討したほうがいいでしょう。
Q10:弁護士の費用倒れとは?
例えば、弁護士を利用して示談金を10万円増額できたときの弁護士費用が15万円掛かってしまったら「5万円の費用倒れ」になるということです。
弁護士が増額できるのは主に慰謝料の部分なので、次のようなケースでは交通事故によるむち打ちで費用倒れになることがあります。
- 治療期間が短い場合
- 被害者(依頼者)の過失割合が高い場合
慰謝料を算出する際のベースとなる治療期間が短くて、慰謝料自体が少ないケース。
相手方の保険会社が、今回の事故であなたの過失割合を高く見積もってきて、過失相殺によって慰謝料が少なくなるケース。
Q11:弁護士の費用倒れにならないためには?
多くの弁護士事務所では、初回の相談は無料または低料金で提供しています。
こうした事務所や紹介サービスを利用すれば、自分のケースを説明して弁護士からのアドバイスを受けることができます。
その際に、争点や勝訴の見込み、費用の見積もりなどを確認しましょう。
経験のある弁護士なら症状などを聞いて、ある程度の通院期間の目安を立てることができるので、それによって増額できる金額がどのくらいになるのか見当がつくはずです。
【まとめ】弁護士を利用するメリット・デメリット
弁護士を利用することに対して、「費用が高そう」「時間がかかりそう」というイメージを持っている人は多いでしょう。
たしかに一定の費用はかかりますし、書類作成や交渉などである程度は時間もかかります。
ただし、費用に関しては、基本的には慰謝料の増額分で相殺できると考えていいでしょう。
また、増額分よりも費用のほうが多くなりそうな場合は、初回相談のときにアドバイスがあるはずなのであまり心配することはありません。
時間に関しても、慰謝料の増額のために必要な時間と考えればやむを得ないと言えるのではないでしょうか。
これらをデメリットと考えるかどうかは人それぞれだと思いますが、逆に、弁護士を利用するときのメリットがこちらです。
- 弁護士基準で算出
- 妥当な過失割合の主張
- 後遺障害等級の申請・請求
提示された慰謝料が弁護士基準に達していなければ、その差額分の増額が期待できるというところが弁護士を利用する最大のメリットです。
また、法的な根拠を基に適正な過失割合を主張することによって正しいスタートラインに立つことができます。
もちろん、後遺症が残るようであれば、後遺症等級認定の申請とともに、後遺障害慰謝料と逸失利益の請求も可能です。
そして、ここで改めて確認しておくことがあります。
それは、相手方とのやり取りを、ご自身が加入している任意保険会社に代行してもらっている場合でも、慰謝料(示談金)を「弁護士基準」で請求できる可能性は低いということです。
相手との交渉を代行してもらえる任意保険会社のサービスはとても助かりますが、自動的に慰謝料を弁護士基準で交渉してくれるわけではありません。
そういう意味でも、法的に有利な主張を十分に相手に伝えてくれる弁護士は頼もしい存在になるはずです。
本来主張できるはずの損害項目の細かな請求漏れを防げるという点でも、プロに交渉をお願いすることによるメリットは大きいでしょう。
- この度は事故に遭われたことを心よりお見舞い申し上げ、一日も早いご回復をお祈りしております。まだまだ大変な時期は続くとは思いますが、このページが少しでもあなたの参考になれば幸いです。